システム内製化の進め方
システムの内製化とは、社内にITを活用した業務改善とシステム開発ノウハウを蓄積すること、また、それが実行できる人材を育成する事業戦略です。IT活用のノウハウを社内に蓄積することで、企業としての強みの伸ばす取り組みです。短期的なコスト削減や外注先への依存度を減らすための活動ではありません。
よくある誤解①:完全内製を目指す取り組みではない
システムの内製化によるある誤解は、システムの完全な内製を目指す取り組みではないということです。「内製化」とは、システムの内製に向かおうとする取り組みであり、「内製」で進める領域と、「外部調達」を活用すべき領域が存在します。
もっと正確いうと、経営資源には限りがあるため、全てを「内製」することは不可能であり、内製化に成功している企業には、「内製」するものと「外部調達」するものの基準があります。
例えば、税務会計や人事労務管理のためのソフトは、標準的なパッケージが多くあり、内製をする意味はありません。一方、自社特有の業務プロセスや、自社の独自の強みを強化するようなシステムは、外部に適したシステムがないことがあります。
事業の強みを強化するために作られる、下記のようなシステムが内製化の対象になります。
内製化の対象となるシステム
- 自社特有の管理が必要な業務システム
- 業界特有の管理が求められる情報システム
- 特別な目的に合わせた独自システム
- 業務プロセスが特殊な管理システム
- 医療系の情報システム(院内のローカルールへの適合)
- 業務の変化が多く、素早く改修をする必要があるシステム
よくある誤解②:外注費を削減する取り組みではない
「内製化」にあるよくあるもう一つ誤解は、外部調達コストを削減するため取り組みではないということです。外部調達コストの削減を目指し、完全内製を目指す会社もあります。このような会社では、外注費は「悪」として見られますが、外部リソースを活用しないという方針では、往々にして内製化は上手くいきません。
内製化を成功させるには、外部リソースの活用は重要であり、外注先との継続的な協力関係を得るための外部調達コストは必要不可欠です。
内製化とは、中長期の事業計画に沿って「内製」と「外部調達」のバランスを図る活動であり、完全内製に固執したり、外部調達に依存しすぎると、真の成果が得られません。
内製と外部調達のバランスを図る
内製化とは、これまで外部への依存度が高かったシステム構築の一部を内製化し、強みを伸ばそうとうする活動です。
ITの活用は重要性を増し、今では事業活動と切り離すことができない領域です。事業活動の中枢を担っているといって、過言ではありません。このような中核業務において、内製と外部調達のバランスを欠くと下記のような問題生じます。
外部調達に依存するリスク
- 社内にITを使った業務改善のノウハウが溜まり難い
- 外注先のITベンダーの依存度が高くなり、影響を受けやすくなる
- ベンダーロックイン状態に陥る
- 将来的にIT技術者が不足することは確実視されており、
開発費や保守コストは値上げの影響を直接的に受ける - ITベンダーを選ぶ側から、ITベンダーに選ばれる側に陥る
(外部の協力先パートナーを失うリスク)
完全内製に固執するリスク
- IT活用のノウハウのガラパゴス化
- 外部にある有益な情報やツールの活用度が下がる
- 先人の知恵を借りることができない
- より高い、地点に到達できない
- せっかく導入したITツールが完全には活用できない
- IT技術は変化のスピードが速く、取り残される可能性
完全内製にせよ、外部調達にせよ、バランスを欠き、過度に傾向すると事業上のリスクが高まります。内製と外部調達のバランスを図り、事業上の強みの強化と弱みの補完を進めることが、内製化の重要な目的の一つです。
外部に相談先となるパートナーを見つける
内製化を進めるうえでは、外部にITの活用を相談できるパートナーを見つけておくことをお薦めします。特に中小企業の場合、ITを活用できる人材の確保に制約があることから、
優秀なパートナーと顧問契約などを結んでおくことは有益です。外部に相談先を見つけておくメリットとしては、下記の点があげられます。
顧問契約を結んでおくメリット
- 内製化に必要なシステム開発のノウハウを伝承してもらえる
- 自社の社員の指導役になってもらえる
- 自社のスタッフが退職したときにシステムのブラックボックス化を防げる
- 最新の技術動向が入手できる
- ITツールの選定にあたって、アドバイスが得られる
- 外部調達を進める場合のセカンド・オピニオンが得られる
現在、ビジネス全体を俯瞰して、ITにより業務改善に成果をもたらしてくれる人財は希少です。今後、IT技術者の不足がますます顕著になることから、もし、このような人財に巡り会えたのであれば、積極的にパートナー契約を提案することをお薦めします。
自社に適したツールを選ぶ
システムの内製化を進めるうえで、自社に適したツールを選ぶことは重要です。システムの内製化によく使われるツールとしては、FileMaker、kintone、Access等があげられます。ツールを選定する際の主な検討事項は次の通りです。
ツール選定時の主な検討事項
- 解決したい課題は何か(短期・中長期)
- 導入するITツールで課題は解決できるか(他社の成功事例を調査)
- その課題解決には内部リソースと外部リソースが、どの程度必要か
- 社内にIT活用を推進できる人材はいるか
- ITツールの学習に、どの程度時間が確保できるか
解決したい課題を明確にする
ツールの選定には、まずは「解決したい課題は何か」という点を整理することが必要です。この時、今すぐに解決したい短期的視点だけでなく、中長期的な視点を含めて課題や導入目的を明確にすることが大切です。
導入事例を調べる
ツールの選定には、導入予定のツールで課題が解決できるのか、先行導入している企業の事例を調査しておくとよいでしょう。特にFileMakerやkintoneでは、業種別に導入事例が数多く紹介されており、自社に適した活用ができるか参考にしやすいです。
習得にかかる時間を考慮する
ツールによって、習得にかかる時間は大きく違います。多機能で本格的なデータベースになるほど、習得にかかる時間が長くなります。担当者のITスキルやITツールの学習にどの程度時間が確保できるかも加味して、自社に適したツールを選ぶ必要があります。
ツールの選定は、システムの内製化を成功に導くうえで重要な要素です。ツールの選定を間違え、自社の業務やリソースに適さないツールを選定すると、課題の解決に想定以上の時間を要することになります。このため最適なツールを選択するには、複数の経験者や専門家に意見を求めることをお薦めします。
導入コストよりも活用成果に着目する
ツールの選定の際に一つ注意しておきたいのは、「導入コスト」よりも「導入することで得られる効果」を考えて、ツールを選定することです。ツールを選定する際に、導入コストを軸にツールを選定される方もいますが、それよりも重要なのは活用が進むかどうかです。
FileMakerやkintoneなど高速開発ツールは、その機能を十分に発揮すれば、導入コスト以上の成果が得られます。評価すべき指標は「導入コスト」ではなく、「期待できる改善効果」であり、どのような業務への活用できるかという点をしっかり把握したうえで、ツールを選定してください。
基礎を正しく学ぶ
内製化を進めるうえで、最初のステップは、選定したツールの使い方を学ぶことです。何事も基礎が大事であり、どの分野でも本当のプロは基礎を大切にしています。
FileMakerやkintoneは、直観的に使えるツールであり、基礎を飛ばして独学で開発を進められる方もいます。しかし、基礎をしっかり学ばないと、やがてシステムの再構築が必要となり、結局は遠回りになります。
内製化で成果を上げるには、選定したツールの使い方を体系的に学び、土台固めをすることをお薦めします。
初めに何を内製すべきか。内製化の対象を選ぶ。
初めに何を内製化すべきか、最初の内製化の対象を選ぶステップは、極めて重要です。本質的に言えば、「自社の強みが強化されるテーマ」を選びたいところです。しかし、このようなテーマは、総じて大規模なシステムとなりやすく、内製化に初めて取り組むユーザーには難易度が高くなります。
最初に内製化に取り組むテーマとしては、技術的な難易度が低く、改善効果が出やすい領域に取り組むことをお薦めします。内製化の大きな目的の一つは、スキル開発と人材育成であり、そのためには小さな成功体験を重ねることが重要です。
FileMakerやkintoneは、「素早く開発ができるツール」であるとともに「素早く業務改善が実行できるツール」でもあります。小さな改善を繰り返し、改善効果を実感することがスキル開発の意欲を高めます。
人とシステムは育てていくもの
システムの内製化とは、社内にITを活用した業務改善とシステム開発ノウハウを蓄積すること、また、それが実行できる人材を育成する取り組みです。このため、ITによる業務の効率化だけでなく、スキル開発、人財育成をどのように進めるかとう観点を切り離すことはできません。
また、業務システムに関しても、大規模開発にいきなり取り組むのではなく、小さくスタートし、システムを育てていくことが内製化では重要になります。小さくスタートし、スモールステップによる改善を積み重ねることで、人もシステムも、大きく育ててることができます。
FileMakerやkintoneも、その拡張性は高く、人の成長ともにシステムを育てていくのに適したツールです。継続学習と改善を続ければ、事業の強みを伸ばしてくれる大きな武器になると確信しています。